同業他社に遅れをとりながらも、2009年本格的な海外進出を果たした食品販売業A社。
業績は計画を上回る好調ぶりで、今年はさらに海外店舗の拡大を計画している。
その海外事業を一手に任されているのが入社4年目、26歳の前田である。
留学経験はない。父親を早くに亡くし、母親からの仕送りと奨学金で生活していたので、海外旅行に行く余裕はなかった。もちろん英語は話せない。大学時代の同社店舗でアルバイトスタッフとして働き、それが縁で高い倍率を突破して入社を果たした。
どうしても入りたかった。恋い焦がれて入社したこの会社で、海外事業はチャレンジしなければならない、使命感さえ持っていた。前田を抜擢したのは、海外事業の陣頭指揮をとる室長の安川だ。安川は、海外市場のターゲットと同年代の担当者を選抜しようと考えていた。これにさかのぼること3年。海外事業を担当するチームは国内の新店舗開拓チームの精鋭で構成されていた。豊富な経験をもとに海外市場開拓のミッションを与えたが、立ち上げた店舗の売上は今ひとつ。現地での支持はライバル企業に水をあけられ、思うような成果がでなかった。
安川は、国内の成功体験が染み付いたメンバーでは海外市場の攻略が困難ではないかと考えた。
「我々がターゲットとする年代と同じ目線に立って、何を提供したら支持されるのか、感じ取ろうという意欲を持った人材を投入してみよう」。安川は、社内メールで海外勤務募集の通知をした。35人が手をあげ、もちろん前田もその中にいた。
安川は、現場の評価や業務成績等を考慮し、35人から13人に絞った。改めてその13人のグローバルIQを見ると、前田のひとり飛び抜けたスコアに目がいった。バランスも非常に良かった。
前田はどの指標もスコアが高かった。
年齢的に若い分、感情が乱れやすい面もあるが、実行力の高さやアイデア等は確かに評価の通りだと感じた。
前田は、「立地状況の悪い店舗でも必ず黒字にする」と現場の評価が高かった。長いバイト期間の間に鍛えられたことを考えると、付け焼き刃なものではないことは容易に想像できた。
また安川は前田レジリアンスの高さとバランスの良さに注目した。MD.ネットの担当者から「最近の20代男性はレジリアンスの平均が58点と低い」と聞いていた。他の候補者は70点台だったが、前田は94とこれも飛び抜けて高かった。
「食品を扱うだけに、想定外のトラブルがおこりやすい。物流もゼロから構築するため、恐らく、毎日トラブルの連続だろう。そんな時にめげない、へこたれない、先天的で楽天的な思考が重要不可欠だ。」
安川は最終的に選ぶ7人に適任だと判断した。
最終面談時、安川は前田と会うのは初めてだったが、グローバルIQが示す通りの人物だと感じた。
特に精神面での評価をしたMDのドクターから、
『海外のような突発的な出来事が連続するような状況に対しても、精神的なバランスを崩しにくい。落ち込みにくい。物事を落ち着いて対処し、ピンチをチャンスに変える底力がある。』
というコメントが印象的だった。
本人からも、「ピンチになると燃えてくる」という言葉が聞かれた。
一人残す母親が気がかりではないかと聞いたが、「一度しかない人生だから思い切りやりなさい」と応援してくれているという。安川は、前田にかけてみようと決めた。
期待通り、新店舗立ち上げは成功した。4店舗のうち、前田が立ち上げた店舗はすぐに軌道にのり、前田は他の3店舗の応援にかけつけた。現場や業者からの評価、人気も高く、全店舗を予定通りの成果につなげた。赴任前の役員会では前田の実績に疑問視する声もあったが、今では、ある意味、海外勤務者のロールモデルともなりつつある。A社にとって今年は海外事業勝負の年。安川、前田の真の挑戦はこれからはじまる。
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