日頃、部下との会話の内容が、「すべきこと、しなければならないこと」が中心で、指導が部下の「弱み」の指摘に偏っていたとしたら、時々こんな(下図)のような会話をしてみることをお勧めします。
精神科医としては、患者さんに「ないものは数えない、あるものを探そう」という表現をしますので、仕事に置き換えれば「自分が得意なこととやりたいことが一致する部分を見つけよう」というニュアンスになろうかと思います(★)。
上図の「外発的モチベーション」というのはいわゆる社会的経済的なモチベーション。評価される、認められる、成功する、お金を得るなど外から与えられる刺激や報酬です。
想像しやすいのが経済的に厳しい状況に陥った場合。これは強烈なモチベーションになります。しかし、外発的モチベーションは短期的で、達成した途端にシュリンクし始め、追い続けると緊張、不安、怒り、孤独など精神的不安定さを伴うようになります。また、お金、出世、評価のためならやる、そうでな
ければやらないという思考パターンが形成されると刺激がなければ行動が起こらなくなり、周囲からの信頼も低下します。こういう方と一緒にいると極めてストレスです。
他方の「内発的モチベーション」は、自分自身がその行動を選び、自分自身の意志で動いているという感覚、人が本来的に求めるものといえます。やらされ感、苦痛を感じることなく、長い時間、長い期間にわたって充実感を伴う行動となっていきます。どなたも、自分の心に深く静かに向き合えば、理屈では表現できない、いわゆる「魂」が求めるモチベーションに気がつきます。人の役にたちたい、誰かのために頑張る、喜ばせたい、もっと具体的には「機械」が好き、などなど。言葉にした途端に何だか安っぽく聞こえるのではないかととまどうほどシンプルでピュア。これが明確な人ほど、長期的に、より深く高く、人生を豊かにしていくことができるのです。仕事の場面であれば、タフに粘り強く達成に向けて努力ができます。
「自分の強み、得意なこと」と「したいこと」、これが一致する部分を「sweet spot」というそうです。もちろん、仕事をしているとなかなかそれを見つけることは容易ではありません。また、その仕事をでき
ていたとしても、苦手でしなければならない仕事も同時に進行します。しかし、自分のsweet spotがどこにあるか、それをわかっているのとそうでないのとでは、人生が全く違います。
仕事でのsweet spotがないが、仕事以外の人生にsweet spotがあれば、そのことを考えるだけで幸せです。リタイアしたら取り組もう、でもいいし、休日にやろう、でもいいと思います。しかし、大抵の方は仕事の中に、瞬間的であっても、sweet spotがあるはずです。そのsweet spotは希望です。
部下の方との話で、このsweet spotがどこにあるか、さりげなく聴き出し、整理してみることは有意義でしょう。
苦手なこと弱いことがあれば、それが増幅しないように様々な方法で補完してあげてください。また、すべき仕事が、実は、弱み、苦手で困っているとしたら、ご本人にも事業にもプラスなことはありませんから調整をしてあげてください。人は自分の強みを自分で見つけにくい生き物ですから、それを見つけ出すきっかけが会話の中にあります。上司の方はそれを引き出してあげてください。
仕事以外の時間に、sweet spotがどこにあるか、の話をすれば、お互いの「ひととなり」を知ることになり、関係性が良いものになっていくでしょう。結果、部下のため、ではなく、ご自身のsweet spotを見つけることにもなります。
治療では、常に、こうした視点を大事にしています。最近、こうしたご相談が多かったので、部下育成に参考になれば、と思い書いてみました。
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