日本が高度経済成長を達成していた時には、毎年きわめて多くの新しい労働力が発生していました。もちろん、その時代は終身雇用、年功序列が当然でしたので、職場にうまく順応できない新入社員がいても、周囲は時間をかけて育てていこう、いろいろとやってもらってできる仕事を見つけていこうという姿勢で対応していました。
その後、日本の新規の労働人口は減少し続けていますが、企業も実際に仕事をしている人も、毎年きわめて多くの新しい労働力が発生していた時の夢から覚めることができていません。端的に言えば、職場にうまく順応できない社員に対して、「この人の替わりはいくらでもいるから、こんな人はいらない」と考えてしまうことから抜け出せていないようにみえるのです。
同様に、我が国でパワーハラスメントが一向になくならないことには、「自分の叱責で辞めてしまうような部下はいらない」とそんなふうに思っているのではないかと思えてなりません。
移民による労働人口の増加が期待できず、安価な労働力として利用していた外国人留学生からも不人気になってきた日本は、
「採用すれば替わりはいくらでもいる」という昭和世代の幻想を捨て、手持ちの人材でどのように最善を求めてゆくかという現実的対応が必要になってきていることを、全ての職場で共通認識として持たなければならない状況なのです。
経済開発協力機構 (OECD) が実施したメンタルヘルスの国際調査では、日本ではうつ病やうつ状態の人の割合は2013年の7.9%から2020年には17.3%に増加しており、米国では6.6%から23.5%に、英国では9.7%から19.2%に増加、若い世代や経済的に不安定な人の間で深刻な問題になっています。
Humapの調査では調査対象の会社員の30%以上がメンタルヘルスの不調を認めています。そのうちの40%は医療機関を受診するほどではないと回答していますが、10%以上は受診を検討していると回答しています。コロナ禍が主要な原因とされていますが、誰にとってもメンタルヘルスの問題は自分とは無縁の遠い世界の話しではなくなっています。
また、終身雇用・年功序列の時代は、次々に若い社員が入社してくるので、一定の年齢以上の社員に高い集中力が求められることはありませんでした。さらに、中高年以降でも交代勤務に従事することで、心身の不調を示す人が多くなってきたことは10年程前から注目されるようになっており、加齢の影響で注意力や集中力の低下が生じることを考慮した労務管理が必要とされています。
メンタルヘルスの問題を抱えた同僚や部下に対して、どのように配慮し協力することができるかを考えてゆくことは、「弱いものが得をする」ことではなく、自分がメンタルヘルスの問題や加齢に伴う仕事の処理量の低下に直面した場合に、周囲からの配慮や協力が必要になることを想定した現実的課題なのです。
何故できないの?
何故分らないの?
と追い込むのではなく、
どうしたらできるのか
どう工夫したら分かるのか
建設的な議論と試行錯誤を楽しむ心の余裕が大事です。
心理士 星野
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